「絵本で心にビタミンを」

いきいき子育て応援特集号 vol.19 特別企画

写真左から、妻で店長の石川知恵子さん(62)、石川靖さん、続木美和子さん。靖さんは、「本屋を子どもだけでなく、かつて子どもだった大人も楽しむことができる場」にと取り組む

「本の家2」代表
朝日印刷工業代表取締役社長
石川靖さん
絵本と童話「本の家」店主
NPO法人時をつむぐ会代表
続木美和子さん

前橋のまちなかに11月1日、絵本専門店「本の家2」(同市千代田町)が誕生した。赤い扉を開けるとロングセラーから新作まで多様な絵本や児童書が並ぶ。店を手掛けたのは、朝日印刷工業(本社・前橋市)社長の石川靖さん(62)。出店を手助けしたのは、高崎市で「絵本と童話 本の家」を経営し、NPO法人「時をつむぐ会」を運営する絵本児童書のスペシャリスト、続木美和子さん(70)。石川さんと続木さん2人が、新店誕生の経緯や子どもへの思い、絵本をはじめとする紙の文化などについて対談した。

「さむがりやのサンタ」から始まった店

―「本の家2」ができた経緯は?
(石川、以下石) もともと本が好きでしたが、本屋に関心が出てきた今年の3月、会社の印刷部門「ディップス」のお客さんでもあった「時をつむぐ会」の活動について改めて知り、良い活動だなと思って会員になりました。
(続木、以下続) 石川さんと初めて会ったとき、奥さんの知恵子さんとのエピソードを聞きました。高校生の頃、高崎駅西口にあった「本の家」がデート場所だったんですって。その時、知恵子さんが、「さむがりやのサンタ」(レイモンド・ブリッグズ作、福音館書店)の絵本を石川さんにプレゼントした話を聞き、「何か素敵じゃない?この方となら一緒にやれるかも」と感じました。
(石) ちょうど孫も生まれるタイミングで、すぐに始めたかったのですが、なにせ本の流通に関しては全くの素人だったもので。何とかならないかなと思ってたら、続木さんが「いいわよ。私のところから本を持って行けば」と言ってくださった。
(続) 店舗名を「本の家2」に決めたと聞いたときは、「ほんとにいいんですか?」と思うと同時に「でも上手いな」とも。高崎の「本の家」は始めてから45年。知る人も多くなったところへ、「2」ということで、「どういうことかな?」となります。
(石) 「2」があるなら、「1」もあると、人間なら気になるじゃないですか。両方の店にお客さんが増えたらありがたいですからね。
(続) 本屋を始めたことで、生活や将来に対する考え方など、がらりと変わってしまったのではないですか?
(石) そうですね。共働きだと「こんなに生活が変わるんだ」と毎日思っています。今までは、働くのは私の役で、家事は妻の役と分担されていました。現在は、私も朝ごはん作ったり、洗い物をしたりしていますよ。

本は子どもたちの成長に役立つもの

―どんな店をめざしますか?
(石) 本屋を開いた一番大きな目的は、本が子どもの成長に役立ったらいいなということです。子どもの時から本に親しめる土壌を作りたいと以前から思っていました。今の子どもたちが、本に出合わずにこのまま育っていったら、一体どのような世の中になるかと。私自身は、身近に本があったことで本が好きになった。「紙の本」や「活字」が、今の自分を形作っています。会社の事業としてではなく、自分個人の事業としてやってみたかったのです。建築家の安藤忠雄さんの絵本にあった「結果をすぐに求めちゃいけない」という考え方にも、触発されました。本を読むことは、「心へのビタミン」です。豊かに生きるためには必要なのではないでしょうか。
(続) 「心へのビタミン」はいいわね。子どものことや日本の将来のことなど、私も願っていたことを石川さんがやろうとしていて、一緒に盛り上がっちゃったんです。60歳過ぎてからでも、社会貢献はできるものです。時をつむぐ会主催の絵本原画展に来た子どもが、今度は親になって子どもを連れて来ます。「子どもに見せたい」と言ってくれる言葉を聞くと、続けててよかったなって思います。
「食べ物も必要だけど、心の栄養は絶対必要だ」と、戦後IBBY(国際児童図書評議会・スイス)やドイツの子ども図書館作りに携わったドイツのイエラ・レップマンさんが言っています。また、戦後日本の児童文学作家で翻訳家である石井桃子さんも、「子どもの心の栄養として本が必要」と話していました。今回開催する原画展のメイン作品の1つ「点子ちゃんとアントン」(岩波書店)の作家エーリヒ・ケストナーは、「子どもを変えていかなかったら世の中は変わらない」と考えて、児童書の執筆に取り組むわけです。石川さんと共通しているところがありますね。

絵本を作る紙の良さも伝えたい

―絵本は紙でできていますが、紙の良さはありますか?
(石) 紙には良さがあり、デジタルとアナログというのは共存できるんじゃないかというのが、私の定義です。「これは紙の方がいいし、こちらはデジタルの方がいい」という使い分けを考えてほしい。どうやって分けるかが、人間の知性になっていきます。
(続) 本を作る時には、紙にすごくこだわって作りますが、スマホだと、触る感覚がありません。
(石) 学術的にも裏付けを確立していきたいと研究者と一緒に根拠に基づいた検証しています。群馬大学情報学部の柴田博仁教授が、「ペーパーレス時代の中で、紙とデジタルとが人間に及ぼす影響」を研究しています。「紙の方が良いことは何か」と聞かれたときに、今までは正確に受け答えできなかったことに一緒に取り組んでいます。
―今後の取り組みは
(続) 絵本は子どもが出会う最初の文学であり芸術です。原画展により、次の世代を担う子どもたちの環境を作りたいですね。これからもスタッフと共にできる限り続けていきたいと思っています。
来年も高崎シティギャラリーで、1月22日から2月1日まで、たかさき絵本フェスティバル第28回絵本原画展「チョコレートをあげるならアントン!」を開催します。ピッピやエルマー、アントンなどが主人公のお話は、50年、60年とずっと世界中で読み継がれてきました。絵本や児童書など子どもの成長に寄り添う作品を、子どもにも大人にも一緒に楽しんでもらい、本を手にとってほしいですね。福音館書店や岩波書店の編集者をゲストに迎えた講演会もあり、盛りだくさんです。絵本フェスティバルでお待ちしています。
(石) 世の中では、育児休暇を取得しやすい環境づくりが課題になっています。「育休を取った社員に、会社が絵本をプレゼントするのはどうか」とある会社に提案したところ実践してくれて、先日納品しました。ビジネスモデルを少しずつ増やして、普及につなげたいと考えています。オープンして1カ月、前橋のまちなかで、若い人とのつながりも生まれてきました。今後も、人とつながって本が見つかる「まちの絵本屋さん」を目指します。        (文・写真 谷 桂)

本の家2
看板は、前橋の作家である野村たかあきさんデザイン。建築もメイドイン前橋
前橋市千代田町2-7-25/℡027-212-7273
営業時間:午前11時~午後5時/定休日:日、月曜、祝日
https://www.honnoie2-maebashi.com/

絵本と童話 本の家
高崎市中居町4-31-17/℡027-352-0006
営業時間:午前10時~午後7時/定休日:水曜
https://honnoie.com/

たかさき絵本フェスティバル第28回絵本原画展「チョコレートをあげるならアントン!」
(高崎シティギャラリー)=1月22日から2月1日まで。一般1000円(前売り800円)、4歳以上18歳未満500円(同400円)。チケット好評発売中(両店とも取扱あり)。

石川靖さん/1959年前橋生まれ。新島学園高校、早稲田大学卒、49年に祖父が創設した朝日印刷工業(本社・前橋市元総社町)は、県内外に店舗や工場を展開し、印刷やデザイン、書籍も手掛ける。同社代表取締役社長。2021年11月に「本の家2」を開店。
続木美和子さん/1951年北海道生まれ。74年結婚を機に高崎に。83年から高崎西口にあった子どもの本専門店「本の家」を前経営者から引継ぐ。88年に同市中居町に移転。94年「時をつむぐ会」結成。以降、毎年絵本原画展開催。観音山にケルナー遊具設置運営。

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