病院併設シェルター 犬猫タウン前橋

前橋市に初
20~26日は動物愛護週間

ペットを迎え、共に暮らす家族が増える一方で、依然として殺処分される犬や猫がいる。動物福祉の向上を目指す一般財団法人犬猫生活福祉財団(東京都・佐藤淳理事長)が手掛けた初のシェルター「犬猫タウン前橋」が、前橋市内にオープンして9カ月。同財団マーケティングチームの新井かおりさんと現地の犬猫タウン前橋スタッフの阪上麻理さんに、施設について、また活動から見えてきた課題などを聞いた。                      (飯塚ゆり子)

官民連携で問題解決するモデルケースに

不妊去勢専門病院併設 市内初のシェルター
自然に恵まれた赤城山の麓に、今年1月にオープンした「犬猫タウン前橋」。「犬猫タウン前橋病院」を併設する市内唯一の犬猫専用シェルターだ。

前橋市保健所など行政機関に収容されている犬猫を引き出し、新しい家族につなげる活動と、猫の不妊去勢手術を専門に行う病院運営との両輪で、殺処分・収容・不適切飼育環境ゼロを目指す。運営費は、佐藤理事長が代表取締役を務めるペットフード会社「犬猫生活株式会社」からの利益や同市のふるさと納税の一部、有志からの支援などの寄付に頼る。

シェルターは、犬専用の「わんこ村」と猫専用の「にゃんこ村」からなる。「わんこ村」の収容可能頭数は7頭。室内は仕切られた個室で、屋外スペースもある。一方、「にゃんこ村」は、3段のケージやキャットウォーク、爪とぎを設えたフリースペースが中心で30頭の収容が可能だ。

施設は365日稼働。本部スタッフ、獣医師、動物看護師の正規スタッフほか、ボランティアが交代で犬猫を支える。この施設を「専門の知識や技術を身につけた人材が仕事として動物愛護活動に取り組める体制を整えたモデルケースにしたい」と財団では話す。

20畳ほどの広さがある「にゃんこ村」。
キャットウォークや爪とぎなどスタッフやボランティアの意見を反映させた

 

エイズキャリアの猫専用の部屋も用意されている
わんこ村の室内でスタッフに甘える犬

譲渡開始 手術の専門カーも稼働
同施設が、1月から8月末までに収容されていた犬猫を保健所から引き出したのは、犬7頭と猫50頭。新井さんは「人慣れしていない犬や老猫、エイズキャリアなど、今まで引き出しがためらわれていた子も、協議して迎えています」と話す。9月上旬までに犬3頭と猫11頭が「卒業」。譲渡を前提としたトライアルですでに里親と過ごす犬猫もいる。

現在、この施設で暮らすのは、推定生後8カ月~5歳の犬3頭と、生後3カ月~16歳までの猫20頭。別室で過ごすエイズキャリアの猫4頭は、スタッフに甘えてのどを鳴らしたり、150㌢ほどの高さに設置されたベッドにひょいと潜り込んだり、見た目は他のノンキャリア猫と変わらない。「キャリアでも注意点を押さえていれば、家庭で迎えられる」とスタッフの阪上さんは言う。さらに、「病院が併設されていて獣医師や動物看護師など、専門職がいるのは心強い」と阪上さんは笑顔を見せる。ちょっとした変化や気になる点もすぐに尋ねることができる動物も人も安心できる施設だ。

同病院では、日を決め、猫の不妊去勢手術をしている。当初は、飼い主のいない猫だけを目的としていたが、保護した野良猫の手術を望む声もあがるようになり、保護猫の手術も実施。手術の予約はホームページで受け付けており、4~8月までで120頭が手術を受けている。

移動先で手術ができる専用車両も用意。今後、野良猫の繁殖現場に出向き、集中的に手術を行う予定があるというので頼もしい。

要望がある地域へ移動して
手術をすることが可能な専用車両

保護犬猫への理解 地元に呼びかけ
8月には初めて譲渡会を実施したが、「思うように譲渡が進まない」と新井さんが言うように、課題も見えてきた。年齢や性格など条件が合わず、なかなか結びつかないことがあるという。阪上さんも「譲渡が進めば、保健所からの引き出しもスムーズになり、良い循環が生まれる」と言うが、ミスマッチで再び犬猫たちが悲しい思いをしないよう、それぞれの個体の特徴を知り尽くしたスタッフが、希望者と丁寧に話し合いを重ね、慎重にステップを踏んでいる段階という。

譲渡会を続けることで地元からの認知度を高め、地域に根差した広報活動にも力を入れたいと財団では意気込む。

動物好きもそうでない人も協力し地域問題を解決
犬猫タウンで動物福祉に関するボランティアを募集したところ、車の運転手やペットの美容師ともいえるトリマーには、予想以上の応募があった。それを受けて、先月29日には、犬猫に関するボランティア専門サイト「犬猫ワークス」を立ち上げた。「在宅でできるものもあるので、ホームページをのぞいてほしい」と新井さんは話す。様々な担い手が必要となる犬猫タウン。今後もボランティアの協力を望んでいるという。

9月20~26日は動物愛護週間。阪上さんは「犬猫を家族に迎えたいと考えるとき、保護犬猫も選択肢の一つに入れてほしい。なぜ、このような施設があるのか、背景に思いをはせて」と言う。新井さんも「多頭飼育や野良猫の増加などの問題にも、地域と一緒に力を出し合って解決していきたい」と今後を語る。今後も犬猫タウン前橋の活動に期待したい。

犬猫生活福祉財団が手掛けた初めての保護施設。手前が病院棟で奥にはシェルター

■犬猫生活福祉財団HP:https://inuneko-fukushi.or.jp/

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