「勝利」&「人間的成長」を目指すリーグ戦

高校野球の新たな取り組み
ダブルゴールリーグ 2022 in Gunma

高校野球において、秋、春、夏の公式戦とは別に、独自のルールを用いたリーグ戦を通して野球の魅力を再発見したり、選手のチャレンジ精神を高めようとする動きが全国的に広がっている。群馬県内でも一昨年から、「勝利」と「人間的成長」の2つの「ゴール」を目指すリーグ戦「ダブルゴールリーグ(以下、DGL)」が始まった。3年目を迎える今年は7校6チームが参加、10月から約2カ月間にわたり総当たりで試合に臨む。参加する選手、指導者が理念を共有し、技術や人間力を高め合う、新たな取り組みについて取材した。  (上原道子)

10月から県内6校7チーム参加

渋工野球部の部活前ミーティング。主将(写真右)が事前に考え、監督と打ち合わせた練習メニューをホワイトボードに書き、全員で共有。必ず目的をはっきりさせた上で練習に入る

活躍の機会増やしたい
県内の公式戦は年に3回ある。3年生の引退後の新チームによる初めての秋季大会、4、5月に開かれる春季、そして、夏の甲子園を目指し7月に開催される県大会だ。いずれもトーナメント制であるため、すべて1回戦で敗退したチームは、年間に3試合しか経験できない。

「選手の活躍できる機会をもっと増やしてあげたい」「負けても次があり、失敗が許される環境でのびのびと野球を楽しんでもらいたい」と、渋工・小泉健太監督(33)と、青翠・清水哲也監督(42)とが意気投合し、2019年に、2校だけのリーグ戦「渋川チャレンジカップ」を開催した。

翌20年秋に、「興味を持った」と利根実が加わる。勝利と成長、2つのゴールを意識してもらおうと名称を「ダブルゴールリーグ」に。昨年度は3校に加え、開催趣旨や理念に賛同した群馬高専と松井田・嬬恋・尾瀬・前橋西連合チームが参加。今年度は、渋工・青翠・利根実・群馬高専に加え、新たに藤岡工が参加するほか、松井田と連合を組む藤岡中央も出場する。

今年度は来月から2カ月間にわたり参加校のグラウンドで行われる(1チーム12試合程度の予定)。指導者と選手全員が、準備から審判まで自分たちで運営。チームによっては引退した3年生も手伝い、皆で協力して試合を作り上げる。

失敗を恐れない心と技術力磨く独自ルール
DGLは、参加チーム同士が総当たりするリーグ制。公式戦の無い期間を利用して開催する。1試合9イニング制。勝率で順位を決定し、最優秀打者と最優秀投手に表彰を行う。

選手たちは、トーナメント制のように負けたら終わりではないので、「次がある」という前向きな精神でチャレンジでき、その中で「勝利」と「人間としての成長」の2つのゴール(目標達成)を目指す。また、試合の中でも委縮することなく伸び伸びと力を発揮したり相手と勝負できるようルールを工夫。投手は2ストライクを取るまでストレートしか投げられない。一方、打者はバント禁止で、ストライクを見逃すと即アウトなど、独自の規定を設ける。さらに、ケガや故障対策、世界基準を考慮し、用具は木製または球が飛びにくい低反発バットを使用。投手1人の投球は1試合3イニングまでとしている。昨年DGLに体験参加をしたという藤岡工の林陽一監督は「変化球で逃げに入ることが多かった投手が、打たれないストレートを投げるにはどうしたらよいか考えるなど、技術面での学びにつながった」と話す。

渋工の、堀越優斗(2年)・森山暖輝(2年)両主将は「ストレートが来るとわかっているから初球から思い切り振れる。積極性が身に付いた」「公式試合ではほとんどないが、試合中には相手に敬意を持って『ナイスプレー!』などとたたえ合う。気持ちが良いし、人間的成長にも良い影響を与えていると感じます」とそれぞれ話す。

指導者にとっても学びの場
選手の成長や可能性に焦点を当てたリーグ戦の普及に取り組むのは大坂の「リーガ・アグレシーバ」。少年野球の指導をしている阪長友仁さんの呼びかけで15年にスタート。群馬のDGL参加各校も「リーガ」の参加校として登録している。

メジャーリーガーを多く輩出するドミニカ共和国での指導方法を日本で広める活動も行う阪長さんと交流があったという青翠の清水監督も19年、実際にドミニカに渡った。一方の小泉監督はコロナ拡大直前の20年に、アメリカで普及している指導法「ダブル・ゴール・コーチング」を学びに現地へ。日本と海外との違いは、指導者と選手との関係性だという。「日本では指導者が上、選手が下というイメージがあるが、アメリカやドミニカでは対等。指導者は選手一人ひとりをリスペクトしなければならない。高圧的ではなく対話的な指導が大事」と口をそろえる。

10月中に、講師を招いてのワークショップや講演会を開き、DGLの趣旨や意義、スポーツマンシップなどについて選手と指導者がともに学び、理解を深める予定だという。

将来を見据えた人間形成
DGL創設者の一人、小泉監督は開催規定の中に、「失敗を責めず次のチャレンジを促す」「自己の野球観に固持せず、常に学ぶ姿勢を持つ」「選手の努力、学び(成長)、レジリエンス(失敗から立ち上がる力)を見逃さず、評価する」など、指導者の心構えを盛り込んでいる。ここには、自身の野球人生での学びが関わっているという。

「大学まで野球を続けたが、自分の力が通用しない時期や挫折を味わうことも多かった。努力して成果が出なくても、それに真摯に向き合う姿勢や、向上心を持つことは大切だと一人ひとりに対話を通じて伝えてきた。3年生の主将が引退するとき『努力は平気で裏切る、でも努力することは大切だと知りました』と言ったのは嬉しかった。失敗から自力で起き上がる力をこの時期に体得できたのは社会人になったとき必ず役立つはず」と目を細める。

前主将の五嶌泰世さん(3年)は「公式戦では悔しい思いもしたが、もっと高いレベルの場所で挑戦してみたいので大学でも続けます」と週に一度、後輩たちとの練習にも参加している。

技術の向上を目指して主体的に励む心や、失敗や逆境を跳ね返す強い力をも培う、高校野球の新たな取り組み。3年目を迎え、徐々に成果も見え始めている。今後もどう広がっていくのか、見守っていきたい。

昨年度の参加校が一堂に集まり開かれたセミナー
様々な場面を想定して、どう動くのが最適かを選手に考えさせながら指導する小泉監督(中央)
練習のはじめや試合中、体全体を使って元気に行う「全力じゃんけん」は渋工独自のパフォーマンス。全員が盛り上がることで士気を高める
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