メイドイン群馬の木製楽器

職人が木を刻むことで、美しい音色が響く楽器が群馬で生み出されている。
群馬で製造しているバイオリン、ウクレレ、カスタネットの工場や工房を紹介する。
(谷桂、上原道子)

バイオリン

人柄のように優しい音のバイオリンに
山猫バイオリン工房(藤岡)
冬桜が咲く藤岡にある山猫バイオリン工房。弦楽器職人・金子斉一郎さん(37)が音にこだわったバイオリンやビオラ、チェロなどの弦楽器の製作をしている。

金子さんは、埼玉県出身で、大学の工学部に通っていたが、上野公園で路上演奏をするバイオリンの音に衝撃を受けたという。それがきっかけで、音楽院で基礎を習得し、都内の楽器店やオーストリアのザルツブルグなどで修理や製作を修行。5年前から知り合いのいた藤岡で仕事を始め、2019年に工房を開設した。

バイオリンは、ヨーロッパ発祥のもの。材料にはトーンウッドと言われる「杢目(もくめ)」が美しいスプルースとメープルなどヨーロッパ産の高級木材を使っている。製作は、まず、紙に図面を起こし、次に角材に下絵を描いて、糸鋸やノミで切り出すのだという。硬さや木質も一定ではないので、ヤスリは使わずに、4㌢ほどの小さいカンナを3次元に動かして、カーブを出すためにひたすら削っている。塗装ニスについても、松ヤニと油を配合した天然由来の自作。ネックやボディから塗装まで手作業で、1本の製作には約2、3カ月間もかかる作業になる。

300年の歴史があるバイオリン製作だが、その中で優れたモデルをチョイスして、そのコピーをするのではなく、「先人が理想とするところは何か」を想像して反映をしようとしている。金子さんは、「プロや上級者には、調整しながら一生使えるものになるように。曲が弾けない初心者でも音を出すと楽しいと感じる楽器にしたい」と想いを語った。その後、バイオリンから、「人柄のように優しい音」が広がった。

木の「杢目」を活かし、バイオリンのボディやネックを削り出していく
自作のバイオリンの音を聞かせてくれた弦楽器職人の金子さん。弓には、白馬の毛を使用
バイオリンの表面を削る小さな靴のような形のカンナ。ヤスリは使わない

■藤岡市浄法寺1751
電話 090-9366-2675
HP: https://yamaneko-violin.com/
インスタグラム: @atelier_yamanekoviolin/
11月18から20日まで、秋葉原UDXギャラリーで「弦楽器大展示会」(島村楽器主催)に、弦楽器製作者グループ「日本マスターバイオリンメーカーズ」として出展

カスタネット

タンタタン!と響き続ける「森のカスタネット」
カスタネット工房(みなかみ)
タンタタン!と鳴るカスタネット。青と赤の丸い楽器でリズムを打った人も多いだろう。みなかみ町にある冨澤健一さん(76)の「カスタネット工房」では、木の香りがする「森のカスタネット」を製作している。

最盛期には、年間200万個以上を製造していたが、木材調達が難しくなり、約10年前に廃業しようと決断したが、ちょうどその頃、みなかみ町では、豊かな森を育もうと「赤谷プロジェクト」が始動。同町や日本自然保護協会などに「赤谷の木を使って、カスタネットを作ってくれないか」と依頼されたことで、再び工房は稼働し、新たなカスタネット作りが始まった。

まず、製材した板を機械で丸く抜き、フォルムにへこみをつけながら、カスタネットの形に削っていく。ヤマザクラやクリなど多様な木材があり、硬さも様々。木の固さや木目、天候、湿度によって、削れる具合が異なることから、工具や機械についている刃のカーブや当てる角度を自ら工夫して使用している。くぼみを何度も磨き、最後に専用のゴムを通したら、木肌を活かした「森のカスタネット」が完成する。「難しいこともあるが、仕事も人生も何とかならないかといつも考えているんです」と冨澤さんは笑顔を見せる。人と木のぬくもりがあるカスタネットが小さな工場で生まれ続けている。

遊びに来た親戚の子どもたちと一緒にカスタネットを鳴らす冨澤さん(写真左)

 

くぼんだところも、工夫を重ねた自作の機械でていねいに磨く。溝を深くすると低い音が鳴るカスタネットに

 

木肌を活かしたカスタネット。表面に子どもが絵を描くこともある

【製作工場】 カスタネット工房
利根郡みなかみ町布施1600(現在、工場見学は中止)
【販売】 森のおもちゃの家(道の駅 たくみの里内)
利根郡みなかみ町須川996-1
電話 : 0278-25-8777
HP:  https://www.mori-megumi-manabi.com/

ウクレレ

「群馬を“ウクレレ”のまちに!」
三ツ葉楽器 (前橋)
1948年創業、国内唯一のウクレレ量産メーカー「三ツ葉楽器」(前橋市上大島町)。当初は同市平和町で教育用木琴を製造していたが、学校の夏休みに需要がなくなることから「ほかの楽器を」と考えたのがウクレレだった。ハワイアンブームに沸く55年から製造開始。64年に現在の木工団地へ移った。最盛期には1カ月に2千本以上作るほど多忙を極めたが、ビートルズ来日がきっかけで世はエレキギター人気に。国内の楽器メーカーは次々とウクレレから手を引いていった。同社はウクレレ低迷期、新たに家具製造にも乗り出すが、その間も「いい音」の追求を続けた。すると90年代にブームが再燃し、20年ぶりに製造の勢いが復活。現在は全国シェア8割のメーカーとして注目を集めている。

製品の割れやねじれを防ぐため、加工前の木材の乾燥は必須。同社では屋外で自然に乾燥させている。「冬の空っ風、夏の高温多湿な風土が天然乾燥に適しているのです」と同社の大澤茂(73)社長。

約30人の従業員のうち半分がウクレレ製造に携わり、工程ごとに配置された職人が手作業で丁寧に作り上げる。部材の接着には、木とともに収縮する動物由来のゼラチン「ニカワ」を使用するため、長持ちのするウクレレに仕上がるという。

今年度からは高校「音楽」の教科書にウクレレが登場。大澤社長は「小さくて初心者でもとっつきやすいのが魅力。県内の高校と連携してウクレレの楽しさを広めるとともに、群馬全体を『ウクレレのまち』として広くPRしていきたい」と意気込む。

三ツ葉楽器の工場内で、今年6月に新発売した県産材のウクレレを手に笑顔をみせる大澤社長

 

三ツ葉楽器のウクレレ。ウクレレはギターに似た4弦の小型弦楽器で19世紀後半にポルトガル移民がハワイへ持ち込んだものがルーツとされる
ウクレレのボディ(本体)が積みあがった工場内

■三ツ葉楽器
前橋市上大島町97
電話: 027-261-0141
HP: http://www.mituba-kk.com/ukulele.html
同社製品は楽器店にて取り扱い中(直売はしていない)

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