作品と過ごす素敵なひとときを楽しんで!

「糸の記憶 アーツ前橋所蔵作品から」

アーツ前橋では今年3月から5月末までの約3カ月にわたり臨時休館した後、展覧会や事業計画の見直しを余儀なくされました。この時期、中堅作家によるグループ展と、工芸の展覧会を予定していましたが、参加アーティストの展示準備のための移動や作品集荷が困難であるなどの理由から、延期や中止となってしまいました。そして代わりに現在、もともとは一展示室で開催予定だった企画展「糸の記憶 アーツ前橋所蔵作品から」を拡大して開催しています。

前半部分では、人物画のさまざまな服飾をご覧いただきます。髙橋常雄の《クマリ夢幻》は、生き神さまとして崇められた少女を描いていますが、ネパールの国の色でもある深紅色の衣裳に身を包んでいます。中村節也の《婦人像(手鏡の婦人)》では、膝丈のスカートにフェルト製のクロッシェをかぶり、描かれた当時の1920年代に流行したモダンガールの装いです。このように、衣服は人物の性格や雰囲気を特徴づけると共に、文化や社会、時代を反映しています。そういった視点で作品を見ていくのも面白いでしょう。

後半部分では、生糸や絹、養蚕をテーマにした作品を紹介しています。木暮伸也の《景織001》は、2枚の写真を1枚は縦方向、もう1枚は横方向に短冊状に解体し、それを織物のように丁寧に織り込むことで多重露光のような視覚効果を作り出しています。養蚕農家であった作者の実家に残された、誰が写っているかわからない写真と、その地域に今も残る桑の木の写真が編み込まれています。かつて養蚕が盛んだったこの地域の歴史と、担い手として産業を支えた無名の女性たちの記憶を伝えてくれます。

木暮伸也《景織001》 2011年 インクジェットプリント(2枚の写真による編みこみ) アーツ前橋蔵

また今回は、アーツ前橋のユニフォームを紹介しています。市民から提供された約200着の古着を素材にワークショップを通して制作した初代ユニフォームと、体型も性別も関係なく着用者の好みで着かたを工夫できる2代目ユニフォームを展示しています。受付や看視スタッフの着こなしにもご注目ください。

そして、本展覧会は入場無料です。美術館での広々とした空間で、作品と過ごす素敵なひとときをお楽しみください。

市民から提供された約200着の古着を素材に制作されたアーツ前橋のユニフォーム

アーツ前橋 学芸員
辻 瑞生さん

2010年からアーツ前橋開館準備に携わり、現在にいたる。主な展覧会は「服の記憶―私の服は誰のもの」展(2014年)、田中青坪展(2016年)、横堀角次郎展(2018年)、やなぎみわ個展(2019年)など

■アーツ前橋(前橋市千代田町5・1・16)■027・230・1144 ■10月13日まで■午前10時~午後6時■水曜休館■入場無料

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