自由な視点でアートに親しんで

「ものがたりの予感」展

現在、当館では「ものがたりの予感」展を開催中です。当館コレクションを通じて、美術作品における「ものがたり」に注目し、イメージとことばの関係や、それにとらわれない作者の自由な発想を見ていくものです。

展覧会で目を惹くのは、まず多彩な版画、挿絵と本の数々でしょう。よく知られた童話や寓話の挿絵、ピカソやシャガール、ウォーホルの動物を描いたシリーズ、選び抜かれた活字とレイアウトの美しさで知られる本など、版画と挿絵15シリーズ、本10冊により、ことばと絵の双方によるものがたりの世界をご堪能頂けます。

なかでも近年人気が高まっているのは、19世紀フランスの版画家J・J・グランヴィルによる挿絵でしょう。洋服を着て、帽子をかぶり、眼鏡をかけた動物たちが人間のように振舞うさまは、人間社会をチクリと諷刺し、現代にも通じる面白さがあります。

また、彫刻作品も見どころのひとつです。岡本健彦の幾何学的な立体には伝統的な《風神雷神図》への言及が、勅使河原蒼風の抽象彫刻には『古事記』への憧れが、西村盛雄のハスの葉をかたどった巨大な木彫には宗教説話が潜んでいることが、作品のタイトルから想像されます。このように、作品の見た目と、作者の意図するものがたりの意外な組み合わせを愉しむこともできます。

さらに、具体的ではないけれど、ものがたりを自ずと予感させる作品もあります。南桂子のおとぎ話を連想させる繊細な銅版画、桐生市出身で日本を代表する現代作家・山口晃の《深山寺参詣圖》などの作品をご紹介しています。異なる時代の人々が行き交い、普通ではあり得ない形の建築物が描かれた山口晃の大画面の絵を前にすると、自然とものがたりを想像したくなるかもしれません。イマジネーションをくすぐる作品に思いを委ねてみませんか。

本展が、「ものがたり」とその「予感」を愉しみ、アートに親しむ機会となれば幸いです。

群馬県立館林美術館 学芸員
伊藤 香織 さん

県立歴史博物館、県立近代美術館を経て2019年より県立館林美術館学芸員。「サラ・ベルナールの世界展」(2018年、県立近代美術館)、「大下藤次郎と水絵の系譜」(2020年、県立館林美術館)などを担当

県立館林美術館(館林市日向町2003)■0276・72・8188■6月26日まで■午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)■月曜休館■一般620円、大高生310円 ※中学生以下無料、障害者手帳などをお持ちの方とその介護者1人は無料、群馬県在住65歳以上の方は平日のみ2割引

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