〝農業嫌い〟が農家になったわけ (vol.8)

農業カメラマン網野文絵のKnow Life 

 

石井真帆美さん(前橋)

毎回衝撃の就農話ですが、前橋市の石井真帆美さん(51)についても驚きと感動なしでは語れません。

真帆美さんは前橋市でトマト、青ナスなど6種類の野菜を栽培する就農4年目の女性。農協や地元スーパーに出荷したり、自宅の直売所にキッチンカーを呼んで地域に賑わいを作り出す行動派です。今でこそ農業を愛する生産者ですが、以前は大嫌いだったそうです!どちらかというと、社会人バレーボールチームに所属していたほどのスポーツウーマン。舞い込んだお見合いで、「次男の嫁は家を継がないだろう」という思い込みから、公務員のご主人と結婚します。しかし、長男はすでに婿に出ていたことが発覚。気付いた時はもう遅い…。嫁ぎ先は「頑固な義父が経営する大規模農家」だったのです。3人の子育てと会社勤務との両立で精一杯。真帆美さんと家族の間は溝が深まり、ついに子供を連れ実家へ帰ることに。

それでも6年間の別居中、家族交流は続け、子供の進学を機に再び夫家族との同居を決めました。「農業は継がない、親の世話もしない」ことを条件に…。

ところが、ほどなくして義父に認知症の疑いが…。そして2014年2月の大雪で畑のビニールハウスが潰れた日を境に症状が悪化。認知症特有の障がいで癇癪を起こす中、真帆美さんが向かい合うとしっかりすることもあったようでした。

さらにその一年後、今度は義母が入院。「野菜の成長は待ってくれないので困りました。でも、結婚してから嫌な思い出ばかりだったのに、毎日義父母のことや農業について朝から晩まで考えている。知らぬ間に二人に影響されていたのだと気付いたんです」という真帆美さんは、入院中の義母と畑の交換日記を始めます。「今日は野菜苗を植えた」と書けば、「次はこうして」と返事がきました。指示書のような日記を基に農作業を忠実にこなしていく中で、自然と農業が面白くなっていったのだそうです。18年には、家業を継承するためご主人より先に就農。と同時に義母から「あなたに石井家の経営を任せたい」と告げられました。それは長い年月をかけて家族が1つになった瞬間でした。

その後、激動の人生を送る真帆美さんを近くで見ていた息子さんも就農。
義母も元気になり、現在は親子3代で野菜作りに励んでいます。「農業は嫌い」…そう言っていた自分を思い出すと、今でも笑ってしまうそうです。「農業は飽きないから面白い。丹精込めて作る野菜を多くの人に食べてほしいです」と笑顔を見せてくれました。
真帆美さんが就農して最強になった石井家を、これからも応援したいと思います。

義父母から受け継ぎ、今では息子と一緒に農作業をしているナス畑
収穫した自慢の青ナスを手に、ほほ笑む石井真帆美さん

あみのふみえ

フォトグラファー
大学卒業後は、カネコ種苗にて広報カメラマンとして13年勤務。もともと野菜が苦手だったが、畑で感じた匂いや景色に衝撃を受ける。これをきっかけに農業の現場を写真を通して伝えたいと農業カメラマンとして活動している。
インスタグラム: @amino_fumie
HP: www.knowlifephotos.com

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