冬の尾瀬(中) 新雪に埋もれて [尾瀬国立公園の南端に位置する西山の山頂を目指す、初めての尾瀬…]

尾瀬国立公園の南端に位置する西山(1898メートル)の山頂を目指す、初めての尾瀬。まずは片品村のスキー場からゴンドラに乗り、雪の上を歩いていく冬だけの「登山道」へ。スノーシューを装着し、午前8時45分、尾瀬の自然保護を考える会・解説ガイドの杉原勇逸さん(70)の案内のもと、いよいよ山登りスタート。山肌は新雪に包まれて真っ白。誰も歩いていない雪原に自分の足跡を刻みながら歩けるなんて、なんて贅沢なんだろう。

そんなことを思ったのも、最初の5分ほど。ふかふかの新雪は、スノーシューを履いていても一歩ごとに足が沈み、体力はみるみる消耗、息があがっていく。先頭を行く杉原さんが新雪の斜面を自らの一歩一歩でラッセルして作ってくれる道が、本当にありがたかった。

雲一つ無い青空のもと、巨大な雪だるまが並んでいるような樹氷の森の中を分け入っていく。冬の雪山は静寂の世界だ。ザク、ザク、ザク……。響くのは自分の足音だけ。一歩ずつ足を前に出して斜面を登り切ると、視界が一気に開けた。「ここが頂上です」。先に到着していた杉原さんの赤いジャケットがまぶしい。

至仏山に燧ケ岳、尾瀬の山々が目の前に広がる。腕時計を見ると午前11時半。新雪に埋もれながら3時間近く歩いて到達した初めての尾瀬。夢のような別世界に入り込んだ気分だった。

(朝日新聞社前橋総局長 宮嶋 加菜子)

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