18年ぶりの夏 [第105回全国高校野球選手権記念大会が6日、阪神甲子園球場で開幕した…]

第105回全国高校野球選手権記念大会が6日、阪神甲子園球場で開幕した。今年は私も甲子園のスタンドから開会式の入場行進に拍手を送った。朝から照りつける真夏の太陽のもと、群馬代表の前橋商を始め、各地の大会を勝ち上がった49チームの力強い行進は迫力満点だった。

夏の甲子園大会は、高松総局に勤務していた2005年に香川代表校の取材で訪れて以来、実に18年ぶり。あのときもこんなに暑かったかな、と肌がじりじり焼けるのを感じながら、ある名将の言葉を思い出していた。

代表チームの担当記者は、主催者としてチームの練習スケジュールなどを把握し、取材調整も行う。グラウンドへの移動のバスにも同乗し、1時間ほど監督やコーチ、選手たちと同じ空間で時間を過ごす。当時の香川代表は、丸亀城西。丸亀商から校名変更した古豪で、率いるのは春夏10回目の甲子園となる名将・橋野純監督だった。最初は何を話していいのか分からずただ緊張していたが、選手と監督の「対話」に耳を傾ける時間が何より大事な取材なのだと気づいた。

試合は初戦敗退。橋野監督は選手を前に相手チームを讃え、いつものように穏やかな口調でこう言った。「負けるなよ。これからの自分の人生に負けるなよ」

橋野監督は2019年、71歳で亡くなった。夏になるとよく思い出すこの言葉を、甲子園の空を見ながら、改めてかみしめた。

夏の甲子園球場は、特別な空気が漂っている

(朝日新聞社前橋総局長 宮嶋 加菜子)

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