群馬県立自然史博物館特別館長  真鍋 真 さん

「 恐竜の研究により『過去』を知ることで『今』を考え、『未来』を展望することにつなげたいですね 」

恐竜模様のネクタイとバッジを身に着けて、ティランノサウルスが展示されている同館でほほ笑む「恐竜博士」の真鍋さん

本年度から県立自然史博物館(富岡市)の特別館長に就任した国立科学博物館標本資料センター・コレクションディレクターの真鍋真さん(61)。古脊椎動物を専門とし、中生代の爬虫類、鳥類の進化を読み解く研究に国内外で取り組んできた。2019年には国立科学博物館で開催された「恐竜博2019」の展示で監修を担当。恐竜ファンにも大人気の“恐竜博士”真鍋さんに、恐竜研究や開館25年を迎える同博物館の今後について聞いた。

「そうだったのか!」とワクワク研究

― 館の印象は?
1996年の開館から恩師である長谷川善和名誉館長率いる当館を何度も訪れています。展示がとても充実していますし、職員も研究熱心で活発。そのメンバーに加わることができとても嬉しいです。

― 子どものころから恐竜が好きだったのですか?
東京生まれの東京育ちで、子どもの時は化石探しをしたこともありませんでした。「研究してみよう」と思ったのは大学生になってからです。化石をじっくり観察し「そうだったのか!」と、それまでの疑問が解けた時のワクワクした喜びは計り知れないですね。

好きな恐竜は「トリケラトプス」と答えることが多いですが、その時に研究対象としている化石が一番好きかもしれません。

― 恐竜研究の面白さはどこにある?
恐竜の研究は世界中で行われていて、日進月歩です。たとえば、爬虫類である恐竜の体はウロコで覆われていましたが、実は1996年にはフリースのような羽毛が生えた化石が世界で初めて発見されました。恐竜の段階から羽毛が生えていたことが分かったのです。一部の「羽毛恐竜」の中から翼をもつものが現れ、鳥類に進化していきました。

このように化石の色々な情報から、現代と過去がつながります。もし現代の生物のことしか知らず、化石を研究することがなかったら、気が付くことはできません。「過去」を知ることで「今」を考え、「未来」を展望することにつながっていくところが魅力です。

― 恐竜の研究は現在も進化しているのですか?
つい最近のこと。小学生低学年以下向けのイベントで恐竜の話をした後に女の子から「恐竜の卵の話がありましたが、卵は体のどこから出てくるのですか?」と質問されました。爬虫類も鳥類も総排泄口という柔らかい穴から出てくるのですが、恐竜がどんな穴を持っていたかは簡単には分かりません。「恐竜については、柔らかい部分がなかなか化石に残らないので、穴の形や大きさは分かりません」と答えました。

そしたら、その翌日、新しく論文が投稿され、ある恐竜の総排泄口の形が分かったというのです。ワニみたいな縦長の穴で、大便も小便も卵もその穴から出てくるらしいことが分かりました。発見や研究は日々進歩していますから、分からないと決めつけてはいけないと子どもの素直な質問で学習しました。

生物多様性が人類存続のカギ

― 恐竜研究から分かることは?
鳥類に進化したもの以外の恐竜は、約6600万年前、地球に隕石が当たり環境が大きく変わったことで、繁栄した恐竜だけではなくアンモナイトや首長竜、翼竜なども絶滅しました。我々は現代から未来を考えなくてはなりませんが、過去の経験からしか学ぶことができません。「恐竜たちに何が起こってどのように絶滅したのか」を考えるのは、現代と未来を考える一つの重要な手がかりとなります。

― 人類は滅亡するのでしょうか?
約6600万年前は、第5回目の大量絶滅と言われています。生態系が変化し、生物多様性がぐんと落ちてしまいました。逆に、体の小さい鳥類やネズミのような小さな哺乳類は生き残りました。生物多様性とは、たくさんの生き物たちがいて、お互い生態系でつながり合っていること。私たち人間も多様な生物の一種に過ぎません。

第5回目以降は平穏に来ているように見えますが、実際は哺乳類の中でも特に人間が増え、環境を変えてしまい、他の生物の多様性を激減させてしまっています。第6回目がすでに始まっていると考えられています。その中で何ができるかを考えるとき、「人類を救う」ことだけではなくて、地球の生物多様性を上げていくことが、結果的に「人類を救う、地球を救う」ことになるのではないでしょうか。

多様性が低くなると、何か変化があったときに、多くの種がドミノ倒しのように絶滅してしまうリスクが高まります。生物多様性をこれ以上減らさないというのが、世界の国の開発目標SDGsの一つの柱でもあります。これ以上大量絶滅の危険性を増やさない、生態系と環境を維持することが大切なことです。

新たな関心と出合う場所に

― 今後、さらに魅力的な博物館にするためには?
新しい自分の興味や関心と出合うための魅力的な博物館にできるといいですね。大人も子どもも「どうしてなんだろう?」と新たな疑問が生まれる場所にしたいです。

― 今年は開館25周年の節目ですね
館内のメンテナンスの課題に対応するだけでも大変なのですが、恐竜などの過去はもちろん、現代の地球、そしてこれからの地球に興味や関心が広がるような場所にしていきたいですね。

コロナ禍のこんな時こそ博物館が果たす役割を考え、コロナの心配が無くなったら、来館していただける形に是非ともつなげたいですね。
(文・写真 谷 桂)

【まなべ・まこと】国立科学博物館・標本資料センター長、分子生物多様性研究資料センター長。1959年、東京都生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、米イェール大学大学院理学研究科修士課程修了、英ブリストル大学大学院理学研究科PhD課程修了。博士(理学)。古脊椎動物を専門とし、恐竜など中生代の爬虫類や鳥類の進化を化石から見つめる。父は未来を描いたイラストレーターの真鍋博さん。

■群馬県立自然史博物館(富岡市上黒岩1674・1)■0274-60-1200■特別展「ぐんまの自然の『いま』を伝える」1月23日~2月14日■1月25日、2月1、8日休館■事前予約制 http://www.gmnh.pref.gunma.jp/

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