水に流す? [東京電力福島第一原発の「処理水」について…]

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東京電力福島第一原発の「処理水」について、政府が海洋放出する方針を決めました。漁業関係者にとどまらず、国内外から怒りや不安の声が上がっています。

朝日新聞では、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)に触れた冷却水が地下水や雨水と混ざった高濃度の水を「汚染水」、放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS)で処理した後、そのままでは海に放出できない水を「処理済み汚染水」と呼んできました。放出が決まったのは、処理済み汚染水をALPSで再処理して放射性物質の濃度を法令基準よりも十分低くした「処理水」です。

安倍晋三前首相は8年前の東京五輪招致演説で、汚染水問題を「アンダーコントロール(管理下にある)」と宣言しました。ところが、処理済み汚染水は約125万㌧(東京ドーム1杯分)に達し、タンク1千基超で保管中。唐突な決定の実態は「管理下」どころか、満杯に近づいて追い込まれ、もはや打つ手がないからでは。

麻生太郎財務相は、処理水を「飲んでもなんていうことはない」と力説し、東電の社長は海洋放出による風評被害に迅速、適切に損害賠償すると表明しました。でも、政府も東電もこの10年、都合の悪いことを一切隠し立てせず、ひたすら被災者を尊重し、福島だけに押しつけまいとする姿勢を貫いてきただろうか。

過去をとやかく言わず、すべてなかったことにすることを「水に流す」と言います。よもや海洋放出にそんな意図はないか。いくら安全だと言われても疑問や懸念が尽きません。

(朝日新聞社前橋総局長 本田 直人)

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