群馬大会史上初 前橋育英V4

校歌を歌い終えて応援スタンドに向かう育英選手

9年ぶりとなる前橋勢同士の頂上決戦。大会3連覇中の前橋育英に、92回大会以来の甲子園出場を目指す前橋商業。試合は投手戦を制した育英が、群馬初の4年連続で優勝を果たし、5度目の甲子園出場を決めた。(撮影・高山昌典、横山博之)

第101回全国高校野球選手権群馬大会 決勝
前橋育英が県勢初の4連覇を達成!

エース梶塚の好投で、前商打線を零封

育英一回表、先制のホームを踏む森脇

初回に、育英が先制点を挙げる。2番森脇真聡がライトへのツーベースヒットで出塁すると、この日、初戦以来の4番に座った須永武志が三遊間を抜くタイムリーヒットで1点を奪う。五回に再びチャンスを迎え、1番丸山大河のライト前ヒットを皮切りに三者連続ヒットでさらに1点を加えた。七回にも8番中村太陽が四球を選び出塁したのをきっかけに、丸山、森脇の長打で3点目を加え、育英が3対0とリードを広げた。

育英五回表に、タイムリーヒットを放つ剣持選手

一方の前商は、四回に4番小松誠也のセンター前、5番長尾瞬のライト前ヒットで得点機を作るものの後続を抑えられ、得点につなげられなかった。七回以降は、精度をさらに上げた梶塚の投球を攻略できず、三者凡退に打ち取られ、決勝戦を無得点で終えた。
試合後、前商の住吉信篤監督は「(育英の)上位打線の左バッターは打てると分かっていましたが、それでも打たれたので、相手のバッターが上だったと思います。(敗因はエースの)梶塚君を攻略できなかったことがすべて。狙い球、コースは分かっているんですけど、それでも手が出ないほど素晴らしいピッチャーだった」と肩を落とした。

前商のエース・井上温大は「2ストライクに追い込んでからでも難しい球をファウルにされたり、簡単に三振しなかったので、球数を投げさせられてしまった」と悔しさをにじませる。疲れから本来の投球ができなかったとはいえ、育英の強力打線に苦しんだ。

閉会式後、優勝メダルを胸に笑顔でガッツポーズをとる育英の選手たち

無失点で完投勝利を収めた育英の梶塚は「(前商は)ホームランというより、つないでくるチーム。真っ直ぐを打たれるイメージがあったので、『左右ではなく(変化球で)前後の緩急を使いながら』という話が(捕手の)須永とできていました」と巧みな投球術で前商打線を零封した。また、七回以降、三者凡退に抑えたことに、「前商は七回からの攻撃がすごく、球場全体を飲みこむ雰囲気がありました。完全に球場を黙らせるには3人で抑えて(前商の)流れを切るしかないと思いました」と、梶塚は満足そうな表情を浮かべた。

8月6日から甲子園での戦いが始まる。育英の選手たちが目指すのは、2013年に先輩たちが成し遂げた「全国制覇」だ。梶塚、須永のバッテリーを中心にした守りから攻撃につなげる野球で、全国の強豪に挑む。

群馬大会史上初 夏4連覇の立役者

前橋育英 梶塚 彪雅

四球ゼロの驚異的な制球力が 光った県下ナンバーワン投手

圧倒的なコントロールの良さを誇った梶塚。今大会で投げた5試合39イニングで、出した四球はゼロ。死球は5球だが、これはインコースを積極的に攻めた結果によるもので、失投ではない。自責点はわずか3。これは準決勝の桐一戦での失点だけだ。

前商との決勝戦で、当日、バッテリーを組む須永武志と話し、今大会で初めてチェンジアップを使うことを決め、相手打線を翻弄。前商の住吉信篤監督は「ストレートが速いので、チェンジアップが生きていた」と投球術に舌を巻き「梶塚君を攻略できなかったことがすべて。狙い球、コースは分かっているんだけど、それでも手が出ないほど素晴らしいコントロールだった」と賞賛した。

順調だったわけではない。春の関東大会で東海大相模に負けた後、荒井直樹監督から「一回、外野をやりながら周りを見よう」と提案された。梶塚は、3週間ほど外野から他のピッチャーが投げているのを見て、コントロールの大切さを知った。この経験が夏の大会の見事な投球につながった。課題は、左バッターのインコース。甲子園で全国の強豪チームとの対戦を通し、さらなる進化をとげるだろう。

前橋育英 須永 武志

2年生の要 バットでも能力の高さを発揮

憧れのキャッチャーは元ヤクルトの古田敦也。対戦選手のデータを頭に入れた配球だけでなく、バッターボックス内の打者や相手ベンチ内の様子までも観察して、投手をリードする。

準々決勝の市立太田戦では、ベンチ内の相手の監督の動きからスクイズを察知。スクイズ外しを行って走者をアウトにしたほど、2年生とは思えない判断能力の高さを見せる。

今大会で、育英は一度も先制点を与えていない。そのことに須永は「春の大会では逆転が多くて、そうするとチームがマイナスの雰囲気になってしまう。点を取られなければ負けないと思っていました」と強気なリードで先制点を呼び込んだ。

転機になったのは昨秋の関東大会の山梨学園戦と今春の関東大会の東海大相模戦での敗戦。「失投で打たれたり、声かけができず、相手の雰囲気にのまれました」。この試合がきっかけとなり、須永は成長の速度を速め、扇の要としてチームを4連覇に導いた。

「ダレノガレ明美に似ている」と荒井直樹監督が茶化すほどのあどけない表情の中に、芯の強さを感じる須永。甲子園でさらなる成長を見せてくれるだろう。

前商 9年ぶりの甲子園出場ならず

前橋商 井上 温大

好調時の球のキレは圧巻 プロ注目の左腕

初戦の富岡戦で、プロ9球団35人のスカウトが井上の投球に熱視線を送ったほど、今大会ナンバーワンの声が高かった注目選手。しなやかな腕の振りから繰り出されるキレのある球で、チームを決勝戦まで導いた。また、準々決勝の高崎戦、準決勝の関学大附戦での接戦では、自らのバットで決着をつけたほど、今大会は投打ともに活躍した。

「私立を倒したい」と選んだ前商。3年連続で私学同士の決勝戦が続いていただけに、準決勝後に井上は「公立校がここまで残って来られたので、優勝したい。三振を取ることにこだわって、今までで一番良いピッチングをしたいと思います」と、頂上決戦に向けて意気込んだ。

だが、思うようにはいかなかった。中2日で迎えた決勝戦。準決勝で延長十二回149球を投げた疲れは予想以上に井上を襲った。
初回に、前橋育英の2番森脇真聡にライトへのツーベースヒットを浴び、4番須永武志にはスライダーを引っかけられて、いきなりの失点。このタイムリーになった須永への打球について住吉信篤監督は、「調子が良ければ、空振りが取れるボール。負担が大きかったのだと思います」とエースをかばった。八回にマウンドを降りるまで3失点に抑えたものの、「変化球で上手くストライクが取れないといけない。相手のピッチャーはそれができていたので、自分もできるようにやっていきたい」と冷静に振り返った。

今後、プロの世界を目指す井上は、決勝での敗戦を糧に、さらなる飛躍を誓った。

準決勝 7月25日 上毛新聞敷島球場

第一試合

前橋育英 7-4 桐生第一
桐一、終盤に力尽きる 育英は4連覇に王手!

4年ぶりの決勝戦出場を目指す桐生第一が準決勝で前橋育英と激突。1番工藤ナイジェルの出塁を足掛かりに攻撃を仕掛ける桐一と、投手を中心とした守りの野球が持ち味の育英との強豪私学対決となった。

今大会、育英は1点差のゲームが多かったが、この試合では大量得点を挙げた。初回に3番剣持京右のセンター前ヒットと5番須永武志の内野安打で先制点を挙げると、二回にも今大会初出場の9番山田祥、1番丸山大河の連続ツーベースヒットでさらに1点を

八回裏育英1死二塁、森脇の中前打で山田が生還して7点目を入れる

奪取。四回には下位打線のバットで一挙に3点を追加。七、八回にも須永のホームランなどで1点ずつを挙げ、この試合で7得点と打線が爆発した。

一方、桐一は三回に死球で出塁した7番齊藤大晟が1番工藤のショートゴロで1点を返したあと、五回にはその前の回に3失点した借りを返すかのような反撃を開始。9番代打・野代成希の長打を皮切りに打線がつながり3得点を挙げ、5対4と1点差に詰め寄った。だが、六回以降は育英のエース梶塚彪雅の好投に阻まれた。七回に工藤がツーベースヒットでチャンスを作るも、ダブルプレーで好機を逃し、終盤に追加点を奪うことができなかった。

試合後、育英の荒井直樹監督は「今大会は苦しい試合が多かったが、(選手は)力をつけてきた。それがこの試合で生きた」と選手たちを称えた。

 

第二試合

前橋商 3-2 関学大附
延長十二回、エース井上のサヨナラ打で幕

先制点を挙げたのは関大附。前橋商の先発でプロ注目の井上温大のキレのある投球に手を焼いていたが、六回に3番貝原優が、インコースの甘めのストレートをライトスタンドへ運び1点を先取すると、八回にも1番根岸龍矢のレフトへの二塁打などでさらに追加点を挙げ、前商を突き放した。

だが、今大会後半に驚異的な粘り強さを見ていた前商は、八回に5番長尾瞬が四球を選んで出塁すると、6番西岡龍二の三塁打、7番市場立也の二塁打などで一気に2点を返し、試合を振り出しに戻した。

延長十二回裏前商2死一、二塁、井上の右前打でサヨナラ

延長戦に入ると、関大が奇策に出た。十回に2番手の藤家竜也が先頭打者を四球で出塁させると、遊撃手の貝原をマウンドに、藤家を遊撃に置き、この日4打数4安打と大当たりの市場を敬遠。再びマウンドに上がった藤家が8番井上を空振り三振に打ち取りピンチの芽を摘んだ。しかし、延長十二回に藤家が先頭打者を内野安打で出塁させると、再び貝原をマウンドに上げ市場を敬遠。2死一、二塁で井上を迎えたが、スイッチした藤家がレフト前ヒットを打たれサヨナラ負けを喫した。

勝利の立役者となった前商のエース井上は「タイブレークに入ったら嫌だなと思った。監督から、『お前が決めろ』と言われ「自分がここで決めるしかないと思った」と見事に期待に応え、チームを勝利に導いた。

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