作曲家 山邊 光二さん

世界の若手作曲家の登竜門「武満徹作曲賞」第2位
誕生日に一筋の光差し込む

「ファイナリスト決定の連絡があったのは、高崎芸術劇場で仕事が終わった帰りでした」と山邊さん。県内外で音楽に携わる仕事を精力的にこなす

世界の若手作曲家の登竜門「武満徹作曲賞」(東京オペラシティ文化財団主催)の本選演奏会が、「東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル」で5月に行われ、前橋市文京町の作曲家・山邊光二さん(33)が作曲したオーケストラの作品「Underscore(アンダースコア)」が第2位に輝いた。群馬県関係者では、最高位の受賞になった。
当日は、世界31カ国、107作品の中から選ばれたファイナリスト4人の作品が世界初演され、山邊さんの他、第1位に、英国のマイケル・タプリンさん(31)など受賞者が決定した。                             (谷 桂)

憧れの武満徹作曲賞で2位を受賞

―受賞の気持ちはいかがでしょう?
憧れの賞だったので、ファイナリストに通過しただけでも大変光栄な上に、2位をいただきびっくりしています。受賞の日が、私の33回目の誕生日とも重なり、人生において特別な出来事になりました。これまで多くのことを経験しましたが、少々仄暗い人生にひと筋の光が差し込んだように思います。

このコンペティションでは、中国やイギリス、スペインのファイナリストの方と一緒に顔を合わせて、いろいろ音楽の話をして過ごしました。留学経験もない私にとっては貴重な機会になり、とても楽しくて幸せな5日間でした。

―オーケストラでの初演を聴いた気持ちは?
オーケストラのために書いた作品でしたが、実際に音を聴くのは初めて。私の音楽が、コンサートホールに解き放たれた感動を噛みしめました。指揮者の角田鋼亮マエストロと東京フィルハーモニー交響楽団の皆さんが、イメージを超えた演奏をしてくださって、感激しました。

―今回どうして応募したのですか?
大学院修了後も作曲や編曲をしていましたが、「どんな音楽を書きたいのか」「そもそも何がしたいのか」と暗中模索の日々が続いていました。武満徹作曲賞だけでなく、他のコンテストにも、何度か応募していましたが、受賞のチャンスがなく、「コンテストに、自分は合っていないのでは」とあきらめかけていました。正直に言うと、「夢って、叶わないものなのかな」とちょっと絶望的な気持ちがありました。

ただ、この作曲賞は、一人の作曲家が審査員を務めて選考するというユニークさが気になっていました。特に今回の審査員は、世界の現代音楽のパイオニアといえる近藤譲先生です。いろいろ迷っていても仕方ない。35歳以下でしか応募できない条件なら、「自分の作曲技術はどうなのか」「自分のスタイルで書いた曲が、他の人からは、どう見えるのか」を確かめるために、最後のチャンスと思ってもう一度挑戦してみようと心に決めていました。

―どんな作品でしょうか?
「アンダースコア」は、アメリカの現代音楽の作曲家J・ケージ(1912~92)の作品《夢》を下敷きに、ピアノ独奏曲を大編成のオーケストラに組み替えて作った曲です。導入部と7つの変奏曲の中で、「遊ぼう」と試みました。「アンダースコア」とは、アンダーバー「_」のことで、下線や空白を表します。BGMという意味もあるようです。ケージの音楽を下敷きにしたことについて、近藤先生も「聴いた限りでは分からない」といっていますが、模倣(パロディー)や作家に影響を受けて創作するオマージュの技法をやってみたくて、大胆に作品として表現しました。近藤先生は、「音楽は遊びだという考え方に徹している」と講評してくださいました。

作品を書き始めたのは、今年の3月ごろです。元々ピアノの独奏曲を書いていたので、それを新しい曲に移し入れながらオーケストラの曲に生まれ変わらせました。大編成とはいっても、室内楽的な響きの曲になりました。

―主に現代音楽を作曲しているのですか?
そうですね。現代音楽とは、西洋音楽史のルーツに連なり、現在に至る音楽ですが、未知なる響きに難解なイメージがあるかもしれません。作曲の際は「現代音楽って、結局なんだろう」といつも考えますが、最終的には、「やっぱり私が書きたいものを書くしかない」ということになるんです。クラシックよりむしろ、ジャズやロック、美術や写真、映画、茶道などからインスパイアされることが多いのですが、想像を膨らまし、考えている時間がすごく楽しいのです。

今回の本選演奏会では、知人のお子さんが私の演奏を楽しんで真剣に耳を傾けてくれたのがうれしくて、素敵な未来を感じました。群馬では耳にすることが少ない現代音楽ですが、もっと聴ける機会を作っていきたいです。

受賞したことを若い世代に還元したい

―今後はどんなことをしたいですか?
日頃、子どもたちにピアノや音楽のレッスンもしていますが、社会全体を見ると、経済的な理由で音楽をあまり経験できない子どももいます。ちょっと暗い話ですが、経済格差から来る「経験の貧困」は確実に存在します。感受性が豊かな子ども時代に、誰もがもっと音楽を体験して豊かになってほしいと思っています。

例えば、ひとり親世帯や貧困家庭でも、コンサートに行ける仕組みができたら良いですね。他にも、身近な素材で楽器を作り演奏に参加できるとか、音楽療法も取り入れて、多様な活動に取り組んでいきたいです。それを自身が進めていく時期になりました。

今回、作品を目に留めてくださった近藤先生や財団の方、指導してくださった先生方、環境を整えてくれた家族、友人などには、本当に感謝しています。この喜びを関わった皆さんや、今度は若い世代にも還元していきたいと思ってます。

若い世代は、デジタルでコミュニケーションすることに抵抗が少ない「デジタルネイティブ」です。その世代が、音楽に対してどう向き合い何と結びついているのかを考えながら作曲、演奏することに興味があります。若い人に積極的に働きかけ、共通の思いを持った人と仲間になって、音楽の楽しさを伝え、地元群馬の音楽文化を盛り上げていきたいです。

初演の後、指揮者の角田鋼亮さんや東京フィルハーモニー交響楽団の奏者らに拍手で包まれた山邊さん(東京オペラシティ文化財団提供、池上直哉撮影)

■やまべこうじ/1990年5月28日前橋市生まれ。国立音楽大学卒業、同大学院音楽研究科作曲専攻修士課程を首席で修了。作曲を森垣桂一、渡辺俊哉の両氏に師事。第26回奏楽堂日本歌曲コンクール(作曲部門)入選。第11回JFC 作曲賞入選。2023年度武満徹作曲賞第2位。23年1月、群馬県教育文化事業団主催の「桐生アートライブ」でピアノと作曲を担当。11月5日「みどりアートライブ」(笠懸野文化ホール)や12月17日「安中アートライブ」(安中市文化センター)も予定。日本作曲家協議会会員。www.koji-yamabe.com

本選演奏会の演奏は、7月16日と23日、午前8時10分~同9時に、NHK-FMの番組「現代の音楽」 で放送予定。

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