花袋の意外な一面や人間性を身近に感じて

収蔵品展「料理は味よりも香を‐花袋と「食」にまつわる話‐」

花袋が使用しためん棒とこね鉢

みなさんには、食べ物のこだわりや忘れられない味、大切な人との思い出の一品がありますか?「食」は、個人を形成する重要な要素の一つであり、その背後には必ず人それぞれの個性やストーリーがあります。本展では、花袋自身が語った「好物」や著作に登場する「食べ物」、家族や友人が語る花袋の「食」にまつわるエピソードに着目し、その関連資料を紹介しています。

花袋は、香りが高く素材の味を楽しめる料理を好みました。大正13年(1924)に雑誌『婦人画報』に発表した随筆「料理は味よりも香を」では、「料理が味にばかり重きを置いて、かおりに意を用いなくなった」ことを「料理の退化」とまで言い切っています。そして、好みの料理の例としては、刺身やきのこの佃煮、早蕨と油揚げの煮物、自然薯のとろろ汁、蕎麦、うどんなどを挙げています。

なかでも、蕎麦には強いこだわりがありました。街なかのものでは満足できなかった花袋は、自分で蕎麦打ちをしています。粉は、信州の焼畑で育った蕎麦の実の挽きたてを使用し、卵黄を入れてしまうと味も香りも純でなくなるという理由で、白身だけを混ぜるのが花袋流のレシピです。展示室では、実際に花袋が使用しためん棒とこね鉢を展示しています。

花袋「日光時代」(明治41年8月1日発表)

また、文壇での交友関係が垣間見えることも本展の見どころの一つ。とくに、今年花袋とともに生誕150年(明治4年生まれ)を迎える国木田独歩との交流は必見です。花袋と独歩は明治29年(1896)に出会い、翌年には約2カ月間日光で共同生活を送りました。花袋の随筆「日光時代」には、当時の2人の生活費の内訳が詳細に記されています。食費の大半は「豆腐」に使われていることから、その半僧生活ぶりがうかがえますが、所々に「羊羹」や「もち菓子」「まんじゅう」の文字が登場するのは、甘い物好きな花袋が買ったものと想像されます。

このように、食にまつわるエピソードからは、文壇の親密な交友関係や、まだ知られていない花袋の意外な一面が浮かびあがってきます。本展を通じて、花袋の人間性をより身近に感じていただければ幸いです。

 

館林市教育委員会 文化振興課 文化財係
小林 里穂 さん

2017年國學院大學文学部哲学科美学・芸術学コース卒業。同年、館林市役所へ入庁し、文化振興課で田山花袋記念文学館の展示企画業務や資料の収集、保存管理事業を担当している

■田山花袋記念文学館(館林市城町1番3号)■0276・74・5100■7月11日まで■午前9時から午後5時(入館は4時30分まで)■月曜休館■一般220円、中学生以下無料。毎月第1日曜日と5月13日(花袋忌)は入館無料。また、午後2時から展示解説会実施■5月23日まで展示室の一部で「全国文学館協議会 第9回(2020年度)共同展示 3・11文学館からのメッセージ」を同時開催

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