多様な「生の軌跡」と出会う機会に

「生の軌跡 ‐ Traces of Life ‐」

昨年12月に行われたアーティストトークで、自作の 《cartwheel galaxy》(2021年 個人蔵)について説明する鬼頭健吾さん

「生の軌跡‐ Traces of Life‐」は、アーツ前橋の収蔵作品を中心に県内の美術館や所蔵家、当館ゆかりの作家の作品で構成する8章から成る展覧会です。章ごとに異なる「軌跡」をテーマとして、絵画をはじめ、写真や映像、インスタレーションなど28作家の作品118点を紹介しています。

1、2章では無意識的な創造のエネルギーの軌跡が刻み込まれた作品に着目し、無意識の世界を表現しようとしたシュルレアリスムの手法「デカルコマニー」を用いた砂盃富男の作品や、人間の意識の介在なしに電動マシーンがグラフィティを描く、究極の「オートマティズム」とも言うべき、菅野創+やんツーの《SENSELESS DRAWING BOT》を紹介しています。3章では沼田市出身の金子真珠郎の作品に焦点をあて、現存する作品の中に作家の生の軌跡を探ります。

武澤久 《銀河》 1991年 アーツ前橋蔵

展示室では作品同士が響き合い、4章「記号に向けて」では、記号をめぐる加藤アキラ(高崎在住)と鈴木ヒラクの作品が時間を超えた煌めきを放っています。「辿り着けない風景」と題した5章の山口薫の《水》に見られる菱形の湖沼は繰り返し描かれたモティーフで、20年以上を経て描かれた《沼のある牧場》にもあらわれ、山口が目の前に見えるものだけでなく、心に刻まれた原風景を大切に描き続けたことがうかがえます。8章「光の軌跡」の武澤久の《銀河》と鬼頭健吾(高崎在住)の《cartwheel galaxy》は、それぞれに銀河に想いを馳せ、ともに流れるように描かれた光の軌跡が、時空を超えた宇宙のスペクタクルへと誘います。

白川昌生(前橋在住)の《弁天通り商店街の光》は、商店街の店々に差し込む光を可視化し、そこに希望を見出し、あらゆる場所にアートが生まれる可能性が潜んでいることを示しています。展覧会を通してあらためて実感できたのは、群馬の地が文化を育む肥沃な土壌として多くの芸術家の活動の場であり続け、豊かな文化資源を有することです。1階ギャラリーは無料でお楽しみいただけます。是非足をお運びいただき、数々の作品、多様な「生の軌跡」と出会う機会を持っていただければ幸いです。

アーツ前橋 学芸員
北澤ひろみ さん

恵比寿映像祭ディレクター、キュレーター、東京都現代美術館学芸員を経て現職。近年の展覧会企画に「MOTサテライト秋 うごきだす物語」(2018年、東京都現代美術館)、「第6回恵比寿映像祭 トゥルーカラーズ」(2014年、東京都写真美術館)などがある

アーツ前橋(前橋市千代田町5・1・16)■027・230・1144■3月6日まで■午前10時~午後6時■水曜休館■一般500円、学生と65歳以上300円、高校生以下無料 ※1階ギャラリー(本展第1章)は入場無料■ギャラリーツアー2月12、3月5日各午後2時から(事前申し込み)、2月下旬より関連イベントのアーティストトークをオンラインで配信予定。詳細は同館HP参照(http://www.artsmaebashi.jp/

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