「青猫世界」に囚われて

「青猫」刊行100年記念展 BLUE MELANCHOLIE
「青猫」が「定本青猫」に辿りつくまで

憂鬱に囚われた、精神的な行き詰まりを表現した空間。奥のスペースではBGMと共に『青猫』の朗読を聴くことができる

萩原朔太郎(1886~1942年)の第二詩集である『青猫』は、タイトルの「青」と補色関係である黄色いクロス装カバーが眼を引く美しい詩集である。同年刊行の『蝶を夢む』とともに2023年で刊行100年を迎え、現在その記念展として開催中である。

実は、一読者として初めて『青猫』を読んだ時、装幀の鮮やかさと相反し、重苦しさと寒気を覚えた。再度本を開いたのは随分後のことである。今にして思えば、それこそが朔太郎の表現力の豊かさ故だったのだが、当時の私には趣味の合わないものであった。そもそも「詩」の解釈や説明は、学術的研究を除けば野暮とも言える。本来、読者が感じるままに作品を味わってもらえば良いと思うが、展示担当をしたことで理解を深め、作品への印象が変わったのも事実である。

当初、『青猫』のタイトル案は『憂鬱なる』。詩集のメインテーマも「憂鬱」だったことを鑑みると、最初の感想はあながち間違いではなかったのだろう。自身や恋愛、家庭などにまつわる苦悩や憂鬱を根底に編まれたものだが、朔太郎にとってはどの詩集よりも「愛すべき詩集」という位置づけだった。それから晩年の50歳で『青猫』の不満点を編纂し『定本青猫』を刊行、過ぎ行く時の中で憂いは昇華され、『定本青猫』へたどり着いたのだった。

今回はこれらをもとに展覧会を構成、『青猫』が醸す「憂い」は囚われをイメージする糸で演出、たどり着いた『定本青猫』を美しく整ったイメージとして「組子」になぞらえ、群馬県建具組合連合会のご協力のもと、組子で空間を彩っている。

視覚で朔太郎の世界に浸り、一度閉じた本が再び眼前で輝く感動を伝えたいという思いを込めた。朔太郎が織りなした言葉の深みを堪能していただければうれしい。

群馬県全域の職人さんたちの作品が並び、見応え十分。美しい建具と『定本青猫』のリンクが感じられる空間になっている

前橋文学館 学芸員
石塚 まりこ さん

東京生まれ。私大文学部卒。群馬県へ移住後、フリーの編集ライター・デザイナーを経て2020年より現職。2021年「いきものずかん」展、2022年「雨月衣」展などを担当。文学や詩と格闘しつつ、趣味のアウトドアとクラフトワークに没頭中

前橋文学館
■前橋市千代田町3‐12‐10■027-235-8011 ■一般500円、18歳以下無料■5月26日まで■水曜休館(2月26~3月5日は臨時休館)■午前9~午後5時(入館は同4時半まで)■4月13日、5月26日は体験ワークショップ(いずれも要予約)

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