試合で教えたことができないのは、自分が子どもに教えられていないということ

NLG INFINITY
堀田 享

今年2月のFIBAバスケットボールワールドカップ2023 アジア地区予選男子日本代表の合宿メンバーに17歳で招集され、3月5日には、米NBAの育成機関・NBAグローバルアカデミー(オーストラリア)に入るために高校卒業を待たずに渡豪した川島悠翔(かわしまゆうと・群大附属中―福岡大大濠)の能力を開花させたのが、伊勢崎市で活動するクラブチームのNLG INFINITYの堀田享さん(53)である。最終回となる今回は、堀田さんの選手を伸ばす指導法を紹介する。             (星野志保)

「ウチのクラブのモットーが『楽しく真剣に』なんです。絶対に練習では怒りません」

取材をした日は、午後7時半から練習が始まり、練習終了の午後9時過ぎまで、皆が集中力を切らさず、生き生きとした表情でプレーしていた。

「バスケットが楽しくなると、相手と真剣勝負した時のワクワク感が出て、『あいつを倒したい』『あいつをブロックしたい』という気持ちが自然と湧いてくるんです」
指導の転機は、地元の伊勢崎市立あずま中学校バスケットボール部の外部コーチとして活動していた頃だった。

「当時は、『厳しい苦しい練習をすれば勝てる。つらいけど我慢すれば勝てるんだ』という意識で指導して、県大会ベスト4になるなど結果を出していたんです。でも、ある程度までは強くなるけれど、そこからが伸びなかったので、『なんでだろう』と、昔、自分が指導されていた時のことを思い返してみたんです。皆でプレーしている時は楽しいけれど、先生に怒られたりした時は悲しいし悔しいしきつかったし、先生の目をうかがいながら練習や試合をしていたのを思い出しました。そして、どういう時にうれしかったのかなと考えたら、先生が喜んでいる時だったんです。だったら、怒らずに、バスケットをするのがうれしい楽しいと、子どもたちが思えるような環境にしたらいいのではないかと考えたんです。それから2日と置かず、すぐに怒らない指導法にガラッと変えました」
現在は、自ら立ち上げたクラブチームで、男子約70人、女子約30人を、11人のスタッフと共に指導。2021年に始まったJr・ウインターカップに群馬県代表として3年連続出場。川島悠翔がエースとして活躍した21年には準優勝をして、「怒らない指導法」は効果を上げている。

「ある時、怒る指導をしているミニバスの指導者に、『なんで怒るんですか』と聞いたら『教えたことができないんです』って言うんですね。できない子を試合に出しているんだから、自分が教えられていないってことなのに」とダメ出しをする。「子どもを上手くしたいんだったら、まずは自分が変わらなきゃダメです」
選手の能力を伸ばすには、伸び伸びと楽しくプレーできる環境を整えること、選手が指導者の顔色をうかがうような怒る指導は必要ないことを堀田さんは教えてくれた。

ほった・とおる

伊勢崎市出身。佐波東ミニバス~佐波東中~高崎商~東海大~丸紅(JBL2)。中3の時に全中で準優勝。家業の和菓子屋「菊花堂」を継ぐため群馬に戻り、伊勢崎あずま中の外部コーチとしてバスケ部を指導。その後、中学生対象のクラブチーム「無限No Limit※」(現NLG INFINITY)を設立。2021年の第1回Jr.ウインターカップで準優勝した。今年5月に民間時間貸し体育館「クロスパーク イチゴイチエ」をオープン。

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