一人ひとりと向き合った指導が チームを成長させる

前橋育英高校 硬式野球部監督 荒井 直樹

今夏の初戦となった渋川戦前に、シートノックで自らバットを握る荒井監督(2022年7月16日、上毛新聞敷島球場)

全国高等学校野球選手権群馬大会で、現在5連覇中の前橋育英。今年は6連覇をかけて夏の大会を戦っている最中である。県外から優秀な選手たちを集めず、部員はほぼ県内出身者だ。毎年選手が変わる中で、どのように強いチームを作っているのだろうか。

「昨年は全然上手くいかなかったんです。春の大会で太田に7回コールド負け。夏前の最後の練習試合でも、文星芸大(栃木)に、1―12で負けたんです。その試合でエースの外丸東眞(慶応大1年)が3回で8点取られて、夏の大会では1回戦負けも覚悟していたぐらいでした」と荒井直樹監督が危機感を抱いたチームは、群馬の頂点に立って5連覇を達成し、甲子園に出場するまでに成長した。

昨夏は、13人の3年生がメンバーから外れた。荒井監督も「メンバーを発表した後、彼らはどうなってしまうんだろう」と危惧していたが、彼らだけで話をして「ベンチ入りメンバーを積極的にサポートしよう。試合に出るメンバーと温度差なく練習に取り組もう」とチームのために尽くすことを決めたという。その様子を記録していたノートを読んで、「思わず泣きそうになりました」と荒井監督。

彼らが「チームのために」という気持ちを強くしたのは、メンバー発表をした当日に、13人一人ひとりを監督室に呼び、「2年3カ月、ここで野球をしてどうだった」と尋ねたのがきっかけとなった。その時、内野手の井田篤希は、「いい仲間に恵まれた」と涙を流したという。その涙の後に井田は積極的に内野のノックを買って出て、チームに活気を与えた。

1回戦の桐生市商業戦に向かう前、荒井監督はベンチ入りできなかった3年生13人の気持ちを選手たちに伝えた。試合に出られなかった選手たちの思いを力に変えて、これまで結果が出せずに苦しんだチームは群馬代表として甲子園に出場した。

ここでカギを握ったのが、メンバーから外れた選手へのケアである。日ごろから荒井監督は、一人ひとりとの信頼関係を大事にし、「何でもしてやろうと思いますよ」と寄り添う。

13人と話をした時、外れた理由を語るのではなく、あえて前橋育英で野球をした感想を聞いたのは、彼らに嫌な思いをさせたくなかったのと、これまで頑張ってきた努力の日々を思い出してほしかったからだ。この監督の思いが、彼らに伝わり、夏の戦いに向けてチームを優勝するまでに成長させるエネルギーに変えたのである。     (星野志保)

あらい・なおき

1964年8月16日生まれ、神奈川県出身。日大藤沢高校から社会人野球のいすゞ自動車で13年間プレー。引退後は母校の日大藤沢高校で3年間監督を務めた後、1999年に前橋育英高校のコーチとなり、2002年に同校監督に就任。2013年夏には、2年生エースの髙橋光成(西武)を擁して全国大会初出場初優勝を成し遂げた。

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