父と新聞 [今週末、父の一周忌を迎える。去年の今頃は、いよいよ具合が悪くなり緊急入院をしたが…]

今週末、父の一周忌を迎える。去年の今頃は、いよいよ具合が悪くなり緊急入院をしたが、コロナ禍で面会もままならず、どうにか最期を家で過ごせるようにとあちこち奔走していた。しかし、ぎりぎり間に合わなかった。

ゴルフに麻雀、お酒と昭和のサラリーマンのテンプレのような父は、休日たいてい茶の間でのんびりと新聞を読んでいた。とくに教育熱心な親でもなかったが、私と弟にも朝日小学生新聞をとってくれていた。新聞はたくさんの世界を私に見せてくれた。あれは何の記事だったか、カンボジアのアンコールワットの神秘的な写真に魅了され、いつか自分の目で見てみたいと思った。大人になりそれを叶えた時、あの場所に立っていると感動した。真っ先に読んでいた漫画は数年前、「ひとつの4コマ漫画として最も多く発行された回数」でギネス世界記録に認定されたそうだ。

父の80歳のお祝いには、生まれた日付の「記念日新聞」を用意した。覗き込む孫たちにその時代を神妙な顔で説明していた。最後の入院中は新聞も読めなくなり、リモート面会の際に私が、サッカーワールドカップの戦況について教えてあげた。今も父はあの世で、再会した猫の花子を膝に乗せ、新聞を広げているかもしれない。

(塩原亜希子)

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