元「やんちゃ」生徒が農業の先生になった感動物語(vol.16)

農業カメラマン網野文絵のKnow Life 

 

斎藤 和宏さん(太田)

斎藤さんが10月中旬にオクラを収穫している様子

今回は、太田市でホウレンソウをはじめ年間約20種類の野菜を育てる農家・斎藤和宏さん(55)のお話です。斎藤さんは、温室ハウスでホウレンソウ栽培を営む農家に生まれました。幼い頃から親の背中を見て育ち、迷うことなく農業高校へ進学。卒業と同時に就農して、農業人生は40年です。

タイトル通り、高校時代「やんちゃ」だった斎藤さん。同じ地域に住んでいた奥さんの明美さん(55)も知る言わば有名人。当時は「近づいてはいけない人」とうわさがあったとか。その一方、潔癖ともいえる「きれい好き」だったことから、高校の担任からは「土をいじる農業には向いていないかもしれない」と言われたそうです。

そんな斎藤さんも、就農後は、一生懸命農作業に励みました。畑をきれいに作り、丁寧な栽培を心がけて、収穫した小玉スイカを10年間も毎年担任の先生に持参したというから、その性格が伺えます。

就農時から付き合い始めた明美さんとは、2年の交際を経て結婚。会社勤めだった明美さんも就農し、両親と4人で新たにスタートしました。しばらくは順調な農業生活でしたが、15年ほど前、メインの収入源だったホウレンソウが土の病気で作れない悲劇がおきました。しかし斎藤さんは、新たに始めたオクラ栽培で、注目を浴びるのです。

オクラは夏の野菜なので、通常、春に露地で植えた苗を夏に収穫し、その後、秋には枯れるサイクルです。斎藤さんは「ホウレンソウを育てていたハウスなら、そのまま冬を越せる」と判断。それまでオクラの栽培時期は、春~秋が当たり前に考えられていましたが、毎日コツコツとハウスの換気や水やりによって、「冬採りオクラ」に成功したのでした。驚きの結果に、農業関係者が次々と見学にきたといいます。現在、冬でも国産オクラが食べられるのは、斎藤さんの功績もあるでしょう。

さて、そんな偉業を遂げた斎藤さんのところに、ある男性が訪ねてきました。なんと、あの高校時代の担任の先生でした。
「農業を教えてほしい」
「しょうがねえなあ」

そう言って、斎藤さんが畑の先生として丁寧に野菜の育て方を教えることになりました。先生は「やんちゃ」から「立派」になった斎藤さんに感激し、斎藤さんはお世話になった人へ恩返しをする気持ちで農業に取り組みました。こんな感動物語がある斎藤さんは、現在、竹炭を使ったハウス栽培にも挑戦。さらなる活躍に期待します。

 

オクラの種から芽が出るとき、種の殻を頭に乗せて登場します

あみのふみえ/フォトグラファー

もともと野菜が苦手だったが、畑で感じた匂いや景色に衝撃を受ける。カメラマンとして農家や畑・作物を撮影するうちに、野菜が好きになる。新しい野菜の“見かた”を発信することがライフワーク。5月中旬に写真絵本「やさいのはな なんのはな?」(岩崎書店)を出版。
■インスタグラム: @amino_fumie
■HP: www.knowlifephotos.com

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