好きな人、好きな花、好きな場所で楽しみながら 乗り越えた40年 (vol.9)

農業カメラマン網野文絵のKnow Life 

 

永井喜一さん(沼田)

冬の花といえば赤やピンク、白など鮮やかな花が魅力のシクラメン! 今、生産者は冬の出荷に向けて葉っぱの仕立てと花芽の調整をおこなっています。今回はそんな沼田市のシクラメン農家、永井花園の永井喜一(67)さんにお話を伺いました。シクラメンの品評会で知事賞を7回連続で受賞され、「出荷まで手を抜かない花づくり」をモットーにする「永井花園」といえば皆さんも耳にしたことがあるかもしれません。

永井家はもともと水稲やリンゴの農家でしたが、喜一さんは農林大学校で幼い頃から好きだった花を学び、前橋の農家でシクラメン栽培の修行をして沼田に戻りました。ここで運命が訪れます。

喜一さんは高校時代、アルバイトの郵便配達中に見かけた背の高い女性に一目惚れ。その後、再会の願いは叶わず、静かに時が過ぎていったのです。ところが喜一さんが地元の青年団に入った時、見覚えある女性に目が止まりました。それが今の奥様、菊枝さんです。「菊枝さん」の名前の由来は、誕生に喜ぶ父親が、庭先に咲いている菊の花を見つめて名付けたとか。菊枝さんは名前の「花」に縁を感じて、喜一さんと花農家になることを決めました。

夫婦となった2人は、まず家の畑を開墾して花の温室ハウスを建てようと思いました。夫婦と従業員で木を切っては運び出し、土地をならして5棟の立派なハウスを建てることに成功しました。この経験が固い結束力となり、「初めてだけど、1年目から花の品評会に出そう」と皆で目標を立てるのです。しかし実際は、花を育てたことがあるのは、喜一さんだけ(笑)。

不安は的中し、失敗続きの日々が始まります。「なぜカビが出るのか?」と従業員に質問されたり、仕立て方や栽培に行き詰まった時は、いろんな生産者の品物と見比べ、違いを目で勉強したようです。喜一さんの知識と根気強い努力の結果、見事に農林水産大臣賞や知事賞に何度も輝くことができたのです。

「花」を生産するという挑戦をゼロからおこなう中で、3人のお子さんを育てつつ、素晴らしい花作りを確立させたのは自分の「好き」を貫き通したからではないでしょうか。大好きな人と大好きな沼田で大好きな花の栽培を生業とすることは、「苦労を辛いと思わない」大きな力があるのでしょう。

好きなもののために頑張り続ける喜一さんの思いは、父親の後ろ姿を見て就農した息子さんにも受け継がれ、花の農業を今後も続けるそうです。

出荷の直前まで花びらを1枚1枚触って状態を確認
シクラメンの花芽がまるで白鳥たちが集まっているようでした

あみのふみえ/フォトグラファー

大学卒業後は、カネコ種苗にて広報カメラマンとして13年勤務。もともと野菜が苦手だったが、畑で感じた匂いや景色に衝撃を受ける。これをきっかけに農業の現場を写真を通して伝えたいと農業カメラマンとして活動している。
■インスタグラム: @amino_fumie
■HP: www.knowlifephotos.com

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