みなかみ町月夜野郷土歴史資料館 [矢瀬遺跡出土 線刻石](Vol.18)

もしかして縄文人は平面美術が苦手?

矢瀬遺跡(16号住居)出土の線刻石。縦10cm×横6.5cm×厚さ2.6cmの凝灰岩製。縄文人が描いた貴重な絵

「線刻石」(せんこくせき)と呼ばれる縄文時代の石器。手のひらサイズの石に、線で人間が描かれています。頭は円、胴体と手足は直線で大の字に表現されています。手には弓と矢のようなものが表現され、私たちの目から見るとかなり雑な絵に見えますが、これは2000年以上前の縄文人が描いた、弓矢を持つ人間と考えられています。それにしても、縄文人は平面に絵を描くことが苦手だったようです。まるで子供が描いた絵のようにも見えます。一方、ハート形土偶(東吾妻町)や火焔土器(新潟県)など立体的な美術はとても得意なのです。

線刻石は祭祀用の石器に分類されますが、具体的にどのように使われたのかは分かっていません。全国でもあまり例がなく、線刻石(礫)としては、愛媛県上黒岩岩陰遺跡出土のものが有名で、こちらは線刻で女性が描かれています。上黒岩のヴィーナスと呼ばれていますが、やはり写実的な絵ではなく、言われてみてようやくそれとわかる程度なのです。矢瀬遺跡からはこのほか2点の線刻石が発見され、こちらも当館で見ることができますが、幾何学模様が刻まれているだけで、何を描いたのかまったくわかりません。

矢瀬遺跡(やぜいせき)は、今から4000~2800年前のムラ跡で、遺跡からは水路、用途不明の木柱列、墓地、住居などが発見されました。また、特筆すべき遺物としては、粘土紐で「目」の字形の文様が描かれた土器、700点を超える土製耳飾りなどがあります。

当館では、線刻石のほか、矢瀬遺跡出土の保存処理された木柱の基部、縄文時代後・晩期の貴重な土器、祭祀に使われたと考えられる石器などを多数展示しています。また、矢瀬遺跡以外では八束脛洞窟遺跡出土の弥生人骨、埴輪や勾玉、鉄器などの古墳の副葬品も展示しています。みなかみ町へお越しの際にはぜひお立ち寄りください。

みなかみ町教育委員会生涯学習課
田村 司 さん

たむら・つかさ/1972年みなかみ町生まれ。1995年、中央大学文学部卒。水上町教育委員会社会教育係、みなかみ町総務課水上事務所を経て、2007年4月より現職。

きてみて
みなかみ町月夜野郷土歴史資料館/みなかみ町月夜野1814-1)/0278-62-3088/開館日:土・日・祝日(平日・年末年始は休館)/開館時間:午前9時~午後4時/一般250円・小中学生150円(町民は無料)

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