規格外野菜でつながる人と人

流通コーディネーターが結ぶ
生産者と飲食店の新しい循環

規格外野菜を購入したことはあるだろうか?
出荷されずに廃棄されることもある規格外野菜などを使ってサラダやサンドイッチを販売する店「Atelier zero(アトリエゼロ)」が1月5日、高崎に誕生した。店を立ち上げたのは、生産者から仕入れた多様な野菜を販売する流通コーディネーター「フードビート」(高崎市)代表の佐々木順平さん(37)。コーディネーターが運ぶ規格外野菜によって結ばれた生産者と飲食店のつながりを紹介する。  (谷 桂)
※規格外野菜とは=味は変わらないのに曲がっていたり傷がついていたり、大きさや色、形、品質などが市場の規格に適合しない野菜のこと。

規格外野菜でつながりを生み出す
【流通コーディネーター 佐々木さん】

店内で規格外野菜を持つ佐々木順平さん

高崎市出身の佐々木さんは、大手電力会社の社員だった20歳の頃に、体を壊したことがきっかけで農業や食に興味を持ち、野菜のことをもっと知りたいと勤務しながら就農。生産者として取り組む中で、規格外野菜の存在や農産物価格の決め方など農業を巡る様々な問題を知る。生産者と消費者、飲食店などの流通をコーディネートするようになった。早稲田大学のセミナーや高崎経済大学大学院、イタリアにも留学して、日本やイタリアの農産物流通の仕組みを学び、8年前からコーディネート会社「フードビート」を始めた。

現在、佐々木さんは毎朝、生産者を回って仕入れを行う。「これは規格外だから売れないよ」という生産者からも一律の金額で買い取り、消費者が食べた感想を話す。さらにそれらの野菜を、今度は別の飲食店に卸し、「野菜の素晴らしさとともに、生産する人の気持ちや背景」を伝えている。

野菜卸しの一方で、今月、規格外野菜を使った手作りのサラダやサンドイッチを提供する「アトリエゼロ」(高崎市)を立ち上げた。ガラス戸を開けると店内には、生産者から直接仕入れた新鮮な野菜や果物が並び、カウンターでは、おしゃれなサラダやスープ、サンドイッチが購入できる。色々な野菜を組み合わせた彩り豊かな商品は、調味料にもこだわって作っている。テイクアウトの他、店内でも楽しめる。おすすめは「ミモザサラダ」(880円)。ニンジンを味付けしたキャロットラぺや北あかりのマッシュポテト、マッシュルーム、ひよこ豆、自家製パンチェッタ(豚バラ肉)などがぎっしりとカラフル。チーズたっぷりのシーザードレッシングが付く。

野菜の中には、ビニール袋に入れずに、土がついたままのものもあるが、廃棄物をゼロにしようという「ゼロウェイスト」の考え方も店名に込めた。佐々木さんが長年、思い描いていた「野菜で人と人をつなぐ」スペースから、新たな循環や価値観の転換が生まれている。

仕入れた規格外のニンジンと下仁田ネギ
正面には、「La nostra vita è con le verdure(私達の人生は野菜と共に)」と刻まれている
手前は、「キャロットラペと塩麹チキンのサンドイッチ」(500円)、奥は「春菊と鮭のサンドイッチ」(550円)。他に、「規格外のイチゴを使ったサンドイッチ」(同)もある。豆乳で作ったスープ「ブロッコリとジャガイモのポタージュ」(420円)も欠かせない。メニューは日によって変わる。ドリンク、アルコールあり

■アトリエゼロ/高崎市貝沢町396・12(駐車場あり) 営業時間:正午から午後6時(不定期でモーニングあり) 定休日:月曜 電話( 027-315-8606 )

 

生産者主体できのこを作る
【生産者 倉渕の塚越さん】

高崎市倉渕町きのこ生産者、塚越敬さん(73)は、50年以上にわたり倉渕できのこ農家を営む。なめこの生産農家から始まり、今ではシイタケの生産を中心に、妻の千種さん(68)と取り組んでいる。倉渕の自然を考えながら、独自の菌床を仕込み、質の高い旨みのあるシイタケやナメコを育てている。

かつては、規格を守って市場に出していた塚越さんは、規格外のものは廃棄していた。5年前に「フードビート」の佐々木さんと出会い、農業について話をしたり、田植えイベントを行い交流。数年前からは、市場には出荷しないで、佐々木さんや直売所など出荷先を変更。それにより、自由度が高い生産者主体の農業になったそうだ。佐々木さんについて、「年間を通して一律の金額で購入してくれるので助かる」と塚越さんは話していた。最近では、規格外の大きく育ったシイタケやナメコも消費者に人気が出て来たという。

 

市場から離れて、生産者主体の農業経営になったと話す塚越さん
塚越さんが栽培したシイタケなど

■塚越農園/高崎市倉渕町 塚越さんのきのこが購入できるのは、アトリエゼロ、道の駅「くらぶち小栗の里」、高崎OPAなど。直売はしていない

 

顔が見える人の野菜を、お客様へ提供する
【飲食店 太田のレストランシェフ・田村さん】

太田の料理店「バル&キュイジーヌ グランディール」代表の田村成嗣(せいじ)さん(38)は、東京の一流レストランで4年間修業。その腕を生かし、8年前に同店をオープンした。佐々木さんとは10年前に東京で出会い、生産者を一緒に訪ねては廃棄されてしまう規格外野菜を積極的に料理に取り入れてきた。

フランス料理やイタリア料理の考え方を取り入れ、大根、ニンジン、下仁田ネギなどの規格外野菜を生かす料理を提供。「肉もおいしいけど、付け合わせの野菜が特においしい」と来店客からも評価されている。人気は野菜のメニュー。ワインにも合うメニュー表のトップの「こだわりのサラダ」が一番人気。規格外ズッキーニの大きさに、びっくりして大喜びする客もあったとか。

田村さんは、「コロナ休業の際に、食材を廃棄したときはとても辛く、規格外野菜を廃棄したくない生産者の気持ちがよく分かった。顔が見える生産者の野菜をこれからも提供したい」と話した。

こだわり野菜のサラダ」(980円)には、サニーレタス、紫からし菜、ルッコラ、ミニトマト、紅芯大根、有機ニンジン、マッシュルームの他、柑橘類のハルカなどが入っている
野菜の付け合わせが大人気。他にも前橋市の生産者が作る「こめこめ豚」や白ワインと一緒にオーダーする人も

■バル&キュイジーヌ グランディール/太田市飯田町538岡部ビル1F西側(店舗裏に駐車場あり) 営業時間:午後5時から11時 定休日:火曜 電話( 0276-49-6300 )

 

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