プロレスが 教えてくれたこと [アントニオ猪木さんが亡くなった…]

アントニオ猪木さんが亡くなった。プロレスラーや政治家として大きな足跡を刻んだ闘魂の男は、詩人でもあった。猪木さんの詩集「馬鹿になれ」は、ページを開く度に、その時々自分自身が抱えている悩みや迷いを包み込んでくれるような、琴線に触れる言葉であふれている。

大人になって、プロレスに惹かれるようになった。きっかけは今から7年前、引退興行を控えていた「ミスター・プロレス」こと天龍源一郎さんの取材で、天龍さんの一人娘、嶋田紋奈さんと出会ったことだった。

紋奈さんが生まれた1983年、天龍さんは逆水平チョップ、パワーボムといった必殺技を繰り出し、ジャンボ鶴田(故人)、藤波辰爾、長州力らとプロレス人気を牽引していた。猪木、ジャイアント馬場の2人からフォールを奪った唯一の日本人レスラーでもある父の闘い続ける姿を見て育った紋奈さんは、プロレスが教えてくれたことがある、と言って、こう話してくれた。

「プロレスは相手の必殺技を逃げずに受け止める競技なんです。相手の全力の技を受けて受けて、受け続けて、倒れて立ち上がった先に勝利がある。それは人生と同じだと思うんです。相手の人生から逃げずに、受け止める勇気を、父は私に教えてくれました」。つい逃げ出したくなるとき、紋奈さんのこの言葉と、天龍さんが引退試合で見せた相手の必殺技を受け続ける姿は、いつも私の背中を押してくれている。そして、猪木さんの有名な詩のフレーズも座右の銘の一つだ。
――迷わず行けよ、行けばわかるさ

アントニオ猪木さんが設立した「新日本プロレス」のベンチマット。冬のスポーツ観戦の必需品として大事に使っている

(朝日新聞社前橋総局長 宮嶋 加菜子)

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