さらば青春の群馬 [2年前の12月。異動先の前橋に向かう乗り換えの高崎駅に着いたとき…]

2年前の12月。異動先の前橋に向かう乗り換えの高崎駅に着いたとき、新幹線のホームでこのメロディを聴いて、不思議な気持ちになった。

♪さらば青春の光……。

高崎が生んだロックスター、布袋寅泰さんの大ヒット曲のワンフレーズだ。

これまで住んだことのない知らない街へ向かう心細さ、寂しさ。でもそれだけでない。思いもよらず大好きな曲に迎えてもらった幸運。――「いいことあるかも」

その直感は当たっていた。容赦ないからっ風を静かに受け入れる笑顔、押しつけがましくなく、常に真摯に優しく筋を通して対応してくれる寛容さ。どこまでも澄んだ空気、どこからかじっても瑞々しい野菜たちに表れる誠実さ……。そんな群馬の人たちや風土に抱かれ、充実した日々を過ごしてきた。

10月1日、東京本社への異動の辞令を受け、群馬を離れて東京に向かうことになった。

離れるその日。前橋から両毛線に乗り、高崎から新幹線ホームへ向かった。2年間群馬で過ごしたあちらこちらの風景が頭をよぎる。灼熱の球場、歓声に包まれるコンサートホール、尾瀬の雪山と新緑、草津の湯煙、樹々に囲まれた水上のカスタネット工場、厳粛な風が吹く御巣鷹の尾根、前橋の広瀬川に千代田町、高崎の優しいネオン街……、思い返せばきりがない。新幹線ホームで2年前と同じメロディーを聴きながら、後ろ髪を引かれるとはこういうことか、と実感した。

さよならだけが人生だ、という文豪もいるが、だからこそ再会の楽しみもあると思える。

2年間ありがとうございました、またいつか。

前橋駅。降り立つ度に空の広さにほっとするようになっていた
2年前の12月。県庁に向かうときあまりの寒さに記念に撮った1枚、空気が澄んでいる

(朝日新聞社前橋総局長 宮嶋 加菜子)

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